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+あこちうエピソード1(ako-side)

亜子は、とぼとぼと廊下を歩いていた。
ついさっき、卒業生のセンパイに告白したあと、逃げるように校舎へとやって来たのだった。

フラれた。

その事実が、重くのしかかる。

覚悟はしていたはずだった。 こうなることは予想できていた。
それでも、それでも。
この、どうしようもない気持ち……抑えられない。


教室の扉を開ける。 誰もいないと思ったので、一人、先客がいたことに驚いた。
出席番号25番、長谷川千雨さん。あんまり話したこと無い、ちょっと恐そうな人。

本当は、一人になりたかった。
でも、何故か、亜子は教室に入っていた。 そっと自分の席に座る。

「ふぅ……」

椅子に座って落ち着いたら、いろいろなことが思い出されてきた。
センパイとのことはもちろん、部活の皆のことや、兄貴のこと。
そして何より、仲良しの友達のこと。

はじめて、まき絵にセンパイのことを相談した時のこと……
裕奈に、「デートにいいよ」とちょっとお洒落なコーヒーハウスを教えてもらったこと……
挫けそうになった時、アキラに「頑張れ」って何度もなぐさめてもらったこと……

考えれば、考えるほど……
思い出せば、思い出すほど……

悲しみは大きく、膨れ上がって、そして。

……涙が、こぼれた。

悲しい。悲しい。悔しい。悲しい。

何でこんなに辛い想いしなければならないんやろう……

こんなに苦しいなら、告白なんてしなければ良かった。
こんなに悲しいなら、好きになんてならなければ良かった!

恋なんて……しなければ良かった…!!

“ポンっ”

突然肩を触られて、亜子はビクッとして顔をあげた。
後ろに千雨が立っていた。
そして……

「よく分からんが、泣くな」

一言。本当に一言、そう言われた。

その言葉の意味を理解するまで、長いことかかった。

(あれ? ウチ、なぐさめられてる?)

そう分かった瞬間、ものすごい恥ずかしさがこみ上げてきた。顔が赤くなっているのが自分でも分かるほど。
亜子がうつむいて押し黙ると、千雨は自分の席に戻ってしまった。

(あれ? あれ?)

おかしい。
さっきまで、あんなに心を占めていた悲しみの気持ちが、ウソのようになくなっていた。

(長谷川さん、ウチのことなぐさめてくれたんや)

代わりに、胸の奥。 くすぐったいような、気恥ずかしいような気持ちが入り込んでいた。

(あんま話したことなかったけど、いい人なんやなぁ…)

暖かい春の日差しのような、大らかに包み込まれるような気持ち。

(あぁ…お礼、言わな……)

顔をあげると、一枚の花びらが目の前を横切った。 目で追うと、風にあおられて廊下へと飛んでいく。

「ふふ……『サクラチル』…か」

亜子は立ち上がり、花びらを追った。 廊下に出る。
はっと気づいて、また教室に顔を突っ込んで言った。

「ありがとう、長谷川さん!」

踵を返すと、晴れやかな笑顔で、花びらを追いかけた。

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